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宝塚メイン 感想はネタバレ含みますのでご注意ください。

MIDSOMMAR ミッドサマー感想(備忘録)

MIDSOMMAR ミッドサマー

2019年7月3日 アメリカ公開 2020年2月21日 日本公開

 監督:アリ・アスター

 

以下の感想にはラストまでのネタバレが含まれます。

 

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まず映画を見終わった直後の率直な感想は、気分爽快!!

最後は洗脳されてしまったダニーの運命がどうなっていくのかを考えると手放しでは喜べない部分もあるけれど、とりあえず映画終了直後の感想としては謎もほぼ無くスッキリとした気持ちになりました。

そしてその後じわりじわりと色々な事が気にかかり、考え始めたらもう止まらない!
自分なりの考察や感想を書きつつ、ネットで情報収集していくうちに気づけばミッドサマーの世界観にどっぷりと浸かってしまいました。

 

1人の女性の絶望、孤独を経てからの再生という主題を、まさかのカルトホラー(監督曰くフォークホラー)と融合させ、かつ緻密な伏線を張り巡らせ最後は見事にそれらを全て回収して多幸感に包まれて終る。アリ・アスター監督最高すぎ。

監督は変態のためのオズの魔法使いとか、現代のおとぎ話と言っていたけれどそれに関わるいろいろな小道具も仕込まれていたので何度でも見返したくなります。

女性目線からしても、ダニーの心理描写とかクリスチャンに対する執着とか本当に男性が描いたのかと思う程リアルでした。

 

物語の進行としては、ダニーたちがペレに連れられホルガに着いた瞬間「これ、まさに生贄要員ですよね?」と観客はすぐに若者たちの行く末が分かってしまいます。そして結末が何となく予想出来てしまっているにも関わらず、最後まで引き付けて離さない物語の進行と演出は素晴らしいの一言に尽きます。

全体に流れるBGMや効果音も明るい風景とは裏腹に不安を掻き立てる素晴らしい演出のひとつでした。まさに明るいけど怖い、いや明るいからこそ怖いというホラーの常識を覆す看板に偽りなしの作品になっています。

 

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最初の大きな儀式であるアッテストゥパン。最初何が始まるのか全く分からないまま進行していきますが、食事を終えた老人二人が椅子に座ったまま運ばれ始めると「あ~もうこれアカンやつ。」とうっすら恐怖を感じ始めます。

(2回目見直して気づいたことは、イルヴァの表情がとても硬く緊張しているのが分かります。儀式として納得はしていてもやはり怖いのかな・・。最後は覚悟を決めたようにも見えましたが・・)

そして崖の上に運ばれたところからすでにこれから起こるであろう事が予測され、不穏な空気が漂いまくって、真っ白な風景と民族衣装に身を包んだ人々との対比がただただ恐ろしかったです。

でも、まさか本当にそんなことはしないよね?フリだけだよね?という気持ちもギリギリまで持たせつつ(私は少なからず持っていました)、結局飛び降りてしまうという衝撃的な儀式でした。

アスター監督は今村昌平監督の「神々の深き欲望」「楢山節考」からインスピレーションを受けた。)

2回目じっくり見てみると、飛び降りに至るまでのダニー、クリスチャン、ジョシュのそれぞれの表情の違いもまた良かったです。ダニーとクリスチャンは恐らく映画を観ている私たちと同じような気持ちで、ジョシュは研究をしていてある程度の知識があるので恐怖心よりも好奇心が勝っているように見えました。

このアッテストゥパンは72歳になると必ず行われる儀式のようなので、特に90年に1度の祝祭だったからという訳ではなく、毎年もしくはもっと頻繁に行われているものなのかな、と思いました。実際割と新しそうな石碑もたくさんありましたね。

このアッテストゥパン辺りからやっぱり普通じゃないな、という展開になっていくのですがホラー映画特有のビックリ演出はほぼ無く、観るものにこの先の展開をじわじわと予想させつつ恐怖心を煽っていくスタイルはまさに名作にふさわしいと思いました。

 

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この後、ディレクターズカット版に入っているシーンで、川に捧げものをするシーンがあるのですが、ここでひとりの子供が生贄に志願すると、それを受け入れた大人が何のためらいもなく当然のようにその子供に足かせをつけ重しを持たせて、川へ投げ入れようとする場面が出てきます。(黙々と作業する村人が空恐ろしい)

居ても立っても居られなくなったダニーが止めに入るのですが、実は村の人がギリギリで止めるというところまでが一連の儀式になっていました。

アッテストゥパンではフリだけだろうと思っていたのが、実際飛び降りてしまったので、ここでもきっと川に投げ入れられてしまうんだろうという観客の不安を煽りまくって、最後の最後でやっぱりフリだけでした。という演出で、これは本当に監督にしてやられた!という感じでした。(結局のところコニーがその生贄になってしまうのですが。。。)

と同時に見事な演出だったのにカットされてしまって惜しいな、という気持ちにもなり、これから見ようという人には必ずディレクターズカット版を推薦しようと思いました。

このエピソードの他にもダニーとクリスチャンの関係性、クリスチャンとジョシュの関係性などがより深く分かるシーンがありますのでディレクターズカット版は必携ですね。

 

そして予想通り、外から来た人々は生贄として次々殺されてしまい、残ったダニーはメイクイーンに選ばれ、クリスチャンは外部の血としてマヤと半ば強制的に性交をさせられます。

ダニーに密かな想いを寄せていたと思われるペレは、恐らくダニーが参加すると決まった時点で彼女をメイクイーンにさせてかつ邪魔者は消し、ダニーの心を救済し自分と結婚するという筋書きを思い描いていだのだと思います。そしてその想いを知ったホルガの人々が協力してダニーをメイクイーンに祀り上げたのではないでしょうか。もしくは、メイクイーン自体が代々外の人間がなっているのかもしれません。

(そもそもダニーの家族の不幸もペレとホルガの人々が関係していると考察されている方もいました。恐ろしいことにそれもまた辻褄が合ってしまいそう・・)

邪魔者のクリスチャンに関しても、村に来る前に妹であるマヤに写真を見せたというシーンがあったので、それも作戦のうちだったのでしょうね。

そしてペレの思惑通り、マヤと儀式をしているクリスチャンをのぞき見してしまったダニーは悲しみに暮れ、クリスチャンとの決別を決めました。

 

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メイクイーンの花のドレスを着たダニー(完全に小林幸子w)が生贄を選ぶシーンでの表情がとても素晴らしく、解放されたいという思いと、失う悲しみとがせめぎ合っているのが表情だけでとても良く伝わってきました。

結局クリスチャンが生贄として選ばれ、熊の皮を着せられて他の生贄とともに火あぶりにされたけれど、熊のせいなのか滑稽で悲惨さはあまり感じませんでした。この怖さと滑稽さの対比もとても絶妙でした。

しかし、生きながらに焼かれていったホルガの生贄2人は、最初こそ英雄なんだという誇りに満ち溢れていたけれど、足元に火が点き痛みと苦しみに襲われたときに初めて、痛みが無くなると嘘の薬を飲まされたと分かり、今際の際で自分たちが信じていたもの全てが間違っていたことに気づいてしまうというのが何ともやりきれないです。

そして最後のほほ笑み。これこそが最高のラストシーンでした。映画史上に残る名シーンだと思います。

 

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この村に来て村人に受け入れられ、救われたと思っているダニーがメイクイーンとしてこれからどんな運命を辿っていくのか、本当に幸せになれるのか・・色々と妄想は尽きないです。 

ハッピーエンドだけどそうじゃない、鑑賞後の爽快感からのモヤモヤ。いくつかのインタビューを読むと監督が言っていた言葉に

「いい気分なのに、なぜかしっくりこないような。体内が清められたはずなのに、何か新しい病気が潜んでる……みたいな気持ちになってもらえたらうれしいですよね。」

「脚本はエンディングのアイデアに向かって書きました。この映画はお別れや失恋の映画という位置づけなのですが、最後どうやったらカタルシスが得られるかを考えました。しかし少し時間がたつと、ドロドロが渦巻いて『本当にこれでいいのか』という気持ちになるように作りました」

まさにこんな感じで監督の思うつぼでした。

「私は、自分が感じた別れのインパクトに合ったスケールの映画を作りたく思いました。そのため本作は大惨事の失恋映画となりました。」

大参事も大参事・・監督、よっぽど辛い失恋体験だったのでしょう。

 

『祝祭、ぶっちゃけ90年に1度じゃないよね?』

90年に1度の祝祭と言われていますが、本当に90年毎ならば皆が人生のうちに1度経験するかしないかくらいのイベントであるにも関わらず、自ら進んで命を差し出すほどのポテンシャルは普通保てないし、何より皆さんの色々な準備や熊捌き等なんと手際の良い事(笑)

なんと言っても、ペレの両親が焼き殺された、と言っていたのを思うとやはりこの祝祭は90年ではなくもう少し短いスパンで行われているのではないかと。

なので外部から人を呼ぶために、90年に1度という、今見に行かないと絶対に損だよ!的な売り文句にしているのではと解釈しています。

・小屋焼き儀式 十数年ごと(ペレの両親が焼死している)

・アッテストゥパン 毎年(新しい石碑がたくさんあった)

・性交の儀式 毎年(赤ちゃんがいた)

・メイクイーン選出 毎年か数年ごと(メイクイーンの写真が結構飾ってあった)

この4つが今回ちょうど重なったのではないかと思います。

 

映像表現について

グロいシーンに関しては私の中ではさほどグロくはなく、普通に鑑賞できるレベルでした。(視覚的なグロはそれほどでもない)

ただひとつだけ、マヤがクリスチャンに対して飲み物に自分の経血を入れ、それをさりげなく飲ませるというシーンだけはちょっと・・という感じでした。

しかし、それをもってしても余りある程、その他の映像美や演出が素晴らしかったのでそれほど気にはしていません。

エロ部分に関しては、もはやエロというよりも私の中ではギャグに近かったです(笑)

 

最後に

監督はもちろん、ダニー役のフローレンス・ピューがとても素晴らしかったです。観る前はただのカルトホラーだと思っていましたが、いい意味で見事に裏切られ、これほど一人で観たのを後悔することになるとは思いませんでした。(なのでここで思いの丈をぶちまけました)

そして映像、音響、セット、小道具・・・どれをとっても間違いなく最高の作品です。

 

色々と取り留めもなく書いてしまいましたが、総括しますと「ミッドサマー」は最高に面白い!アリ・アスター監督天才!次回作にも期待しています。

 

伏線回収とか、ルーン文字、神話をからめた考察などは他の方々の素晴らしいブログ等もたくさんあります。いろいろな角度で様々な考察を読むのはとても楽しいので、そちらでもっともっと深く楽しみたいです。

 

追記(2回目以降で気づいたこと)

最初のメイポール、円の中のルーン文字には草花がついていないようにみえますが、何か意味があるのでしょうか・・

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この座っている順番も意味深ですね。ペレを中心に、向かって左の4人は生贄、右2人は新しい血。(クリスチャンも最終的には生贄ですが・・)

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